12月24日。
運命のその日を、俺は不思議なほど穏やかな気持ちで迎えていた。
今日が来ることが怖くなかったといえば嘘になるけれど、
それより早く、まなみに想いを伝えたかった。
風邪が治ってすっかり元気になった体。
ホワイトクリスマスとはいかなかったけれど、青く晴れ渡った爽やかな空。
1階のダイニングでは、母さんがホームパーティーの準備にいそしんでいた。
「あれ? 今回はお前、手伝わなかったの?」
テーブルを見て俺はまなみに言った。
“心の準備”はまだできていないのか、俺に話しかけられてビクッとするまなみ。
「ちゃんと手伝いましたよー。たとえばこのトマトスライスとか」
「ははっ」
「誰かさんはトマトスライスで充分なんだよね?」
嫌味っぽく言われ、俺は苦笑いした。
なつかしいなあ……。
あの時はまさか、まなみをこんなに好きになるなんて思っていなかった。
最初、まなみは兄貴の彼女で、俺が惚れても手が届くはずのない人で。
兄貴がいなくなってからもけなげに待ち続けるまなみを、俺は見守ることしかできなくて。
でも、もう我慢するのはやめたんだ。
薄っぺらい壁なんか、俺が壊してやる。
そして……いつかまなみに、教えてやりたいな。
俺があの時、トマトスライスを選んだ理由。
初めて会ったまなみが可愛すぎて、完全にあせってたんだよって。
今年の我が家のクリスマスパーティーは、いつも以上に笑いが絶えなかった。
特にゆいさんが提案したチョコレート・フォンデュで、みんな大盛り上がりを見せた。
果物とかチーズとか、各々に好きなものを、溶かしたチョコレートに浸す。
母さんはアイスで試してみたら、熱々のチョコとアイスの冷たさが絶妙だとはしゃいでいた。
笑い声に包まれたリビングで、俺は声を低くしてつぶやいた。
「まなみ、もう少ししたらベランダ行かね?」