「……ぶぇっくしょん!」


ところが俺が発したのは、言葉ではなくでかいくしゃみだった。

バカ、俺!


「すまん」


ううん、と首を振るまなみ。

開きかけていた唇は結ばれて、困ったように微笑している。


「で、何?」


俺がそうたずねると、まなみははっきりと傷ついた顔をした。

その顔を見て俺はまた、自分がくだらない意地を張ってしまったことに気づいた。


ほんと、とことんバカだ。

彼女が何を言おうとしていたのかわかってるくせに、わざと「何?」なんて。


「……ううん、やっぱりいいや。続きはケイの熱が下がったら、ゆっくりね」


あきらめたように笑って立ち上がるまなみ。

今を逃したら、“続き”なんかもうない気がした。

部屋を出ようときびすを返す彼女の腕を、俺はとっさにつかんだ。


「ごめん」

「……」

「ほんとは、わかってる。お前が言おうとしてたこと」


まなみは俺の方を振り返ろうとしない。

けど、俺の手を振り払おうともしなかった。


風邪のせいじゃなくて、体がどんどん熱くなる。

俺らの間の壁なんか、この熱で一気に溶かしてしまえそうだった。


「俺のうぬぼれじゃないなら……きっと俺が言いたいことと同じだから。できれば、俺から言わせて?」


腕をつかんでいるだけなのに、まなみの体がカチカチになっているのがわかった。


また、困らせたかな。

けれど俺も今、すごく困ってる。

経験したことのない熱い想いに、すげぇすげぇ困ってる。


だから……できればまなみも同じ気持ちだって、信じたいんだ。


「3日後のクリスマス、な?」

「え?」

「ちゃんと言うから。心の準備しとけ」


やっとまなみが振り返ってくれたから、俺は恥ずかしさをかみ殺して、微笑んだ。