まなみは手際よく俺の世話をやいてくれた。

頭の下に敷いてもらった氷枕が、ひんやりと心地よかった。


「薬は? 飲んだ?」

「飲んでない」

「じゃ、これ」


渡された錠剤を俺はおとなしく飲み込む。
なんか子供みたいだな、と思った。

よろよろした仕草で薬を飲む俺を、まなみは黙って横で見ていた。


俺は思った以上に喉が渇いていたらしい。

自分でもビックリするくらい、コップの中の水をあっという間に飲み干した。


まぶたが重い。

コップをまなみに渡して、目を閉じた。


「……ありがとうね」


突然の、まなみの言葉。


「最近、お礼言ってばっかりだよね。ケイに守られてばっかりだ」

「別に」


またしても声がうわずってしまった。
今日のことでお礼を言われるなんて、予想外で。


「俺が勝手にやってることだし」

「私ね、今日、武ちゃんを見かけたの」


つむっていた目を、俺は思わず開けた。

まなみを見上げて続きをうながすと、彼女は言葉を探すように時々途切れながら、ゆっくり話し始めた。


「みんなには内緒にしたんだけどね、知らない街で迷子になったのは、そのせいなんだ。
武ちゃんを見かけて、追いかけたんだけど、見失っちゃって……。
けど、なんだか少しだけふっ切れた気がする」

「ふっ切れた?」


うん、とまなみが言った。


「武ちゃんへの気持ちは、正直まだ残ってる。けど、前に進まなきゃって、思えたの」

「――…」


こんなとき、何て言えばいいんだろう。

バカで奥手な俺は、すぐに反応できないでいる。


けれど今、とても嬉しい言葉を聞いた気がするんだ。


俺が超えようと決めた壁の向こう側から、手を差し伸べられたような気が。


「ケイ、私……」


まなみの唇が、震えながら開いた。

決意をもった力強い声。


ダメだ。

その先は俺から言わなきゃ。


俺から――