俺が家に到着したとき、父さんの車はガレージに無かった。

家の中には人の気配がない。
全員でまなみを迎えに行ったらしく、まだ帰っていなかった。


「体、痛ぇ……」


熱のせいで体の節々が痛み、玄関で靴を脱ぐのすらおっくうだった。


ベッドに倒れこんでしばらくすると、家の前に車が停まった音がした。

そして玄関が開く音、一階から聞こえる話し声。

ぼんやりした頭で聞きながら、俺は眠りに落ちていく。

だから、誰かが階段を上ってくる物音にも、まったく気づいていなかった。


「――ケイ。入るよ」


もうろうとしていた意識が一気に覚めた。

いきなり、廊下からまなみに呼びかけられたのだ。


「えっ!? は!?」


寝ぼけた顔やボサボサの髪をあわてて直そうとしたけれど、少し遅かった。

まなみはすでにドアを開けて、そこに立っていた。


「あ、ごめん。……ノック忘れちゃった」

「お前なあ」


とにらんでみたけれど、こんな姿じゃちっとも迫力なかっただろう。


「何しに来たんだよ」

「看病」

「……」


俺はもぞもぞと布団にもぐった。

嬉しくて、顔がにやけて、そんなのまなみに見せられるわけなかったから。


「勝手にしろ」


精一杯そっけなく言ってみたけれど、少し声がうわずっていた。