「もしもしっ」
『もしもし、ケイ――』
携帯を押し当てた俺の耳に、母さんの声が届いた。
それは、明るい声だった。
『――まなみちゃん、無事だったよ』
聞いたとたん、大きな大きなため息が出た。
「そう…よかった……」
心の底から嬉しさがこみ上げた。
まなみのおばあちゃんが無事だとわかったときのような、叫びだしたくなる嬉しさじゃなくて。
安堵が胸にしみこみ、声さえも出なくなるような喜びだった。
母さんいわく、まなみは一人でふらついているうちに、ガラの悪い地域に迷い込んでしまったらしい。
俺が探しに出た直後、父さんの携帯にまなみからSOSの電話がかかってきたという。
まったく、人騒がせな奴だ。
……けど。本当によかった。
喜びをかみしめていたら、前を通りかかったカップルが不思議そうな顔で俺を見た。
俺は自分でも気づかないうちに、顔がほころんでいたらしい。
あわてて無表情をつくろおうとしたら、いきなりばかでかいくしゃみが出て、カップルをさらに驚かせてしまった。
なんだか急に、視界がぐらぐらし始める。
「やべ。本格的に風邪こじらせたな」
鼻水をすすり、俺はバイクにまたがった。
この様子じゃ、帰ったらすぐにベッドに直行だろう。
下手すりゃ明日も寝込むかもしれない。
だけど、心は驚くほどに軽かった。
まるでバイクで走っているうちに、よけいな物を振り払ってきたように。
夜風を浴びて家路に向かいながら、
俺はもう一度自分の気持ちを伝えることを、心に決めた。