「ああ、朝からいないの。どこか出かけてるみたい」

「……」

あいつ、あのまま帰ってきてないんだ。

いったいどこに? 

まさかあんな早朝から友達と待ち合わせだとは考えにくいし、

けれどひとりで一日中ふらつけるほど、東京に詳しいとは思えない。

「まあ、子供じゃないんだし、そのうち帰ってくるさ」

父さんがのん気な口調で言った。

「でもあいつが連絡もなしに、夕飯の時間に帰ってこないなんておかしくないか?」

どうやら俺は無意識に口調が険しくなっていたらしい。

父さんがいぶかしげに俺を見る。

「そんなに心配だったら自分から電話してみたら?」

エミの言葉に、俺は黙り込んだ。


昨日の今日で……そんなことできるわけないじゃん。


だけど、どうしても胸騒ぎがするんだ。

不安が真っ黒なシミになって、胸に広がっていく……。


「俺、探しに行ってくるわ」

「え? ケイ!?」

箸を置いて立ち上がる俺に、みんなが目を丸くした。

「風邪引いてるのに、ダメだって」

「なんでそんなに心配してんの?」


引きとめようとする言葉が背後から聞こえるけれど、俺はそれを振り切ってバイクのキーを取った。


玄関を開けると、強い北風がダウンジャケットをばさばさと揺らした。

刺すような寒さが、胸騒ぎをさらに強くする。


かじかむ手に手袋をはめ、俺はバイクのエンジンをかけた。