次の日の早朝、隣の部屋からまなみが出て行く気配があった。
窓から様子をうかがうと、ふらふらと駅の方に向かって歩いて行くまなみの姿が見えた。
こんな朝早くからどこに行くんだろう。
不思議に思ったけれど、たいして気に止めなかった。
その日は昼過ぎから配送のバイトに出た。
運転席でしゃべり続ける先輩の声が、なんだか聞き取りづらいなあ、
と思っていたら、どうやら熱があるらしかった。
「浅田くん、今日はもう帰っていいよ」
「……すみません」
頭を下げて、タイムカードを押し、着替える。
その作業すらままならないほど、熱はどんどん上がっていた。
「あらまあ。こんなクリスマス直前に風邪ひくなんて、まぬけねぇ」
ふらふらで帰宅した俺を、辛口な言葉で迎える母さん。
「病人に向かって、まぬけはひどい……」
「はいはい。じゃあ病人はおとなしく休みなさい」
2階に上がるのもしんどくて、俺はリビングのソファに寝転んだ。
しばらく眠って目を覚ますと、ダイニングからいい匂いがした。
「ケイ兄、起きた?」
宿題をする手を止めて、俺の半開きの視界に飛び込んでくるエミ。
「うん。……あれ? なんでエミ、ここで宿題してんの?」
「お前が風邪で寝込んでるから、そばにいてあげたんだって」
父さんが微笑ましそうに言った。
「……ふーん」
「さあ、おうどんできたよ」
いい匂いの正体、鍋焼きうどんをお盆にのせて母さんが持ってきてくれる。
少ししか眠っていないつもりだったけど、どうやらもう夕食の時間らしい。
「あれ?」
俺はリビングを見回して言った。
「まなみは?」