土曜日だったせいか、この日はみんなよく酒が進んだ。

下戸の俺とまなみ、そしてもちろんエミは飲めない。

「お腹いっぱいになったから、寝るね」

早々にエミは部屋に戻ってしまい、結局この酔っ払い集団の中で、俺とまなみだけがシラフで取り残された。

鍋の中身がほとんどなくなった頃、ソファの上には大人が3人、爆睡していびきをかいていた。

「みんな、つぶれちゃったねー」

毛布をかけてあげながら、まなみがつぶやいた。

「まあすぐに起きるだろ。締めがまだ残ってるしな」

「締めって……雑炊?」

「いや、うちの場合は米じゃなくて麺」

「えっ、そうなの!?」

必要以上に驚くまなみ。
麺がそんなに珍しいだろうか?

けれど、首をかしげる俺にまなみが言ったのは、無邪気で残酷な言葉だった。

「でも、武ちゃんは雑炊派だったよ?」

「――…」

ショックがそのまま顔に出た。

もう彼女を困らせたくはなかったけど……さすがにこれは、きついだろ。

なんで、ここで兄貴の名前を出すんだよ。

兄貴との思い出をほうふつとさせるようなこと、どうして言う必要があるんだよ。

「あっそう……」

かすれた声で、そう答えるのだけが精一杯だった。

「ごめん、別に、武ちゃんと比べたわけじゃ……」

おろおろとフォローの言葉を探すまなみにイラつく。

「あの、麺入れよっか。パパさんたち起こして……」

……何にもわかってねーんだな、こいつ。

鍋の締めなんか、何でもいいんだよ。

米でも麺でも、別にパンでも。

お前と一緒に食べられるなら、俺は何だって美味いのに。

「もういいよ」

そう言ってダイニングを出た。

まなみはもう、俺に声をかけようとはしなかった。