今日の鍋の主役は、ゆいさんが持ってきてくれた蟹だった。
ちなみに単身赴任中のゆいさんの旦那さんが、送ってきてくれたものらしい。
まなみはゆいさんが結婚していたことを今まで知らなかったらしく、とても驚いていた。
みんなで和やかに鍋を囲んでいると、テレビに外国の街の様子が映った。
クリスマスシーズンで見事に電飾がほどこされた並木道。
広場のような所には、背の高いツリーが立っていた。
「すっげーな。あのツリーの電飾!」
照明オタクの血が思わず反応した俺を見て、ゆいさんは「そういえば」と言った。
「そこの駅前のビルにも大きいツリーが立ってるらしいよ」
「まじで?」
「うん。けっこうキレイなんだってさ。こんどまなみちゃん連れて行ってくれば?」
何気ない様子でゆいさんが言う。
ドクン、と大きく打った鼓動をおさえ、俺は言った。
「は? 嫌だっつーの。なんでこいつなんかと見にいかなきゃいけねーんだよ」
「ちょっと! 私だって嫌だよ」
テーブルをたたいて抗議するまなみ。
「あっそう。意見が合ったな」
「……このふたり、またけんかしてるよ」
エミがあきれたように言った。
俺は東京に帰ってきてからというもの、長野でのことなんか忘れたように、今まで通りの態度でまなみに接していた。
いや、もしかしたら今まで以上に憎まれ口をたたいたり、からかったりしたかもしれない。
そうすると彼女は反応して、怒ったり、最終的には笑ったりしてくれる。
それがとても嬉しかった。