「俺は、いいや。どうせ東京に帰ったら毎日顔合わすし」
「冷たいなあ」
「うん。よく言われる」
詩織はあきれたように腕組をして、寝転がる俺の横に座った。
「まなみちゃんってさあ」
「ん?」
「いい子だね」
「そう?」
「可愛いし」
……確かに。
「けど、いい子すぎると、時として幸せ逃すんだよね」
「……」
俺は顔を上げ、言葉の意味を求めた。
「ちなみにケイも、実はいい奴すぎると思うよ」
「何だよそれ」
「そのままの意味」
ちっともわからない。
だいたい、俺は全然いい奴なんかじゃないし。
言いたいことだけ言って、詩織は部屋を出て行った。
俺は胸にもやもやを抱えたまま、再び枕に顔をうずめた。
まなみたちがいなくなっても、真っ白なゲレンデはそれなりに楽しい時間を与えてくれる。
俺は朝から夜までスノボー三昧の日々をしばらく過ごした。
来る前はほとんど未経験だったけど、さすがに毎日滑っていれば上達する。
滑って、滑って、とにかくよけいなことを考える暇がないくらい、スノボーに熱中した。
ようやく中級者コースをうまく滑れるようになった頃、詩織んちに新しいアルバイトがやってきた。
「というわけで、もう私の手伝いは必要ないみたい」
バイトから開放された詩織と、すっかり雪焼けしたトオル。
そしてちょっとだけスノボーが得意になった俺の3人で、その日は朝まで飲みまくった。
こうして、俺らの長野旅行は幕を閉じた。