朝方になって、雪が止んだことに気がついた。
遠くからかすかに、シャベルカーの音が聞こえたからだ。
それ以外は何も聞こえない。
隣のベッドからの、寝息も。
俺と同じように、まなみもただ天井を見上げて一夜を過ごしていた。
今、何時なんだろう。
そろそろ起きなくちゃ。
けれど起き上がるタイミングがつかめなくて、いつまでも寝転がっていたら、隣の部屋からアラームが聞こえた。
「すげえ、丸聞こえじゃん。壁薄いなあ」
俺は苦笑して言った。
昨夜のやりとりから少しの時間しか経っていないのに、なぜか数日ぶりに声を出したような気がした。
「ほんとだね」
とまなみが言う。
「なんか、うちの壁みたいだな」
「……うん」
東京に帰れば、あの壁が俺たちの関係をはっきりと区切る。
それを思うと、今はまだちょっと胸が痛いけれど……。
腕の内側に残ったぬくもりが消えれば、この痛みだってきっと一緒に消えてくれる。
俺は自分にそう言い聞かせた。
勢いをつけてベッドから起き上がり、カーテンを開けた。
雪に照り返された太陽は、部屋の中をあっという間に朝に変えた。
「いい天気だな。昨日の吹雪が嘘みたいだ」
まぶしさに目を細めながら、まなみはゆっくり体を起こす。
部屋に残る気だるさが、朝の光に温められて、消えていく。
「……行くか」
うん、とまなみが答えた。
道路はスムーズに流れていた。
長野へ帰る車中、俺たちはずっとくだらない話題で盛り上がり、バカ笑いした。
すっかりいつも通りの関係。
これでいいんだ。
俺は思いつく限りの意地悪な言葉でまなみをからかう。
だからまなみにも、負けじと強気な態度で反論してほしかった。
そうやってまなみには、今までどおり笑っていてほしかった。