俺は、ちょっと距離を間違えてしまったみたいだ。
家の中なら、はっきりと俺たちの部屋を分ける壁が存在していたから、間違わずにすんでいたけれど。
こうやって、東京を離れて、一緒に遊んだり、不安や喜びを共有したり。
そんな一日だったから、距離を間違えてしまったんだ。
「……今日だけ」
俺はもう一度彼女を抱き寄せて言った。
「今日だけ、こうしてていい?」
「……」
「大丈夫。明日になったら俺はまた待機係に戻るから」
まなみの顔が苦しそうにゆがんだ。
彼女も辛いんだろう。
ごめん。
俺のワガママで、こんな思いをさせて。
「今日だけ、頼むから。お前が兄貴のせいじゃないっていうなら……全部、俺のせいにしていいから。……だから、こうしてていい?」
ずっとずっと抑えてきた気持ち。
本当は、こんな形で伝えたくはなかった。
まなみを抱きしめるのは、きっとこれが最初で最後だと思った。
これ以上ないくらいに近くに彼女を感じて、めまいがするほど幸せで。
なのにまぶたの裏に浮かんでいたのは、
今一番考えたくない、あいつの顔だった。