スキー客向けに作られた詩織んちのペンションに比べ、このホテルはあまりにも飾り気がなかった。

青みがかった蛍光灯。
リサイクルショップに並んでいそうな質素なテレビと冷蔵庫。

そんなそっけない部屋でシングルベッドがふたつ、やたら存在感を放っている。

……って。
それは俺が気にしすぎなだけか。


「よかったね。宿が確保できて」

俺と同室に泊まることなんかちっとも気にならない様子で、まなみはすたすたと部屋に入る。

暖房はついていない。

「寒い寒い」とひとり言みたいに言って、まなみはエアコンの電源を入れた。

古いエアコンは豪快な音を立てて風を吐き出した。

生ぬるい温風が顔にかかり、かび臭い匂いがする。

まなみの髪がエアコンの下でふわふわとそよいだ。


「あのっ。ケイ君」

まなみが振り返って言った。

自分から呼び捨てにすると言ったくせに、さっそく君付け。

「ケイ、だろ?」

「……ケイ」

叱られた子供のように小さくなって、まなみは俺を“ケイ”と呼びなおした。

君付けなんて、もうさせたくはなかった。

せっかく縮まりかけたこの距離を、さらにたぐり寄せようとしてしまう俺がいる。


「で、何?」

続きをうながすと、まなみはハンドルを握る真似をして言った。

「ケイって、車の免許持ってたんだね」

……なんだ。そんな話か。

俺は今、こんなにもまなみに近づきたくてしかたないのに。
そんな気持ちなんか知りもしないで、どうでもいい免許の話題なんか持ち出すまなみ。

ベッドの角に腰をおろし、俺はうなずいた。

「普段はあんまり運転する機会もないけどな。バイトでももっぱら助手席だし」

「バイトって、何してんの?」

「配送」