まなみは今までにないくらい、打ち解けて俺に接してくれていたように思う。
涙には心を開放する力があるというから、そのせいだろうか。
まなみから自然にもれる笑顔が、まぶしいくらいに可愛かった。
「まあ、俺は自分の名前あんまり好きじゃないから、別にいいんだけどね」
「なんで?いい名前じゃない」
「なんか女みたいで嫌なんだよなー。君付けが似合わないっつーか」
「そうかなあ」
まなみは腑に落ちない様子で首をひねる。
そして、ごくごく自然に、こう続けた。
「じゃあ……君付けが嫌なら、これからはケイって呼ぶよ」
胸がきゅっと締め付けられて、それが思わず顔に出た。
彼女が俺の名前を呼ぶ、それを想像しただけで苦しいほどに甘い気持ちが広がっていく。
……やばい。
距離が、わからなくなる。
俺たちの間にある距離は、どのくらい?
やっぱり遠いんだろうか?
それとも……
「……んじゃ、俺もお前のこと、まなみって呼ぶ」
……それとも、手を伸ばせば届く距離?
しばらく車を走らせたけれど、雪はますます強くなる一方だった。
滑りやすくなった路面。
そして、太陽が沈みさらに悪くなった視界。
これ以上は危険だ。
どちらからともなく、そう判断した。
「どっか泊まれる所、探すか」
仕方なくそう言うと、まなみはうなずいた。
けれどこんな夜は、俺たちと同じような人があふれていて、宿泊所はどこも満室だった。
やっと空き部屋のあるホテルを見つけたときには、10時を過ぎていただろうか。
大雪警報が流れる中、逃げ込むように入ったそのホテル。
部屋は――ひとつしか空いていなかった。