ゲレンデではきれいに思えた雪も、運転中の今は視界を悪くさせるだけでわずらわしい。

詩織の親父さんが貸してくれた車で、俺たちは新潟空港に向かっていた。

助手席に座るのは、さっきから無言のまなみ。

心細さをまぎらわすようにバッグを抱きしめるまなみの体は、少し震えているように見えた。

「寒いか?」

「……え?」

「震えてるから」

まなみは他人を見るような目で自分の体に視線を落とした。

どうやら自分自身が震えていることに、今まで気づいていなかったらしい。

結局、寒いとも寒くないとも答えずに、まなみはまた黙り込んでしまった。
思いつめた瞳には、罪悪感がにじんでいた。


――俺は数年前のことをふと思い出した。

うちから車で一時間ほどの町にあったじいちゃんの家に、小学校の頃はしょっちゅう遊びに行っていた俺。

けれど中学に入ったあたりから、めったに顔を出さなくなった。
そしてじいちゃんはある日突然、亡くなってしまった。

あのとき真っ先に感じた感情は、悲しいとか寂しいとかじゃなくて、後悔だった。

どうしてもっと会いに行かなかったんだろう?
どうしてもっと、じいちゃん孝行しなかったんだろう?

たぶん今、まなみも同じことを考えて、自分を責めているはずだ。

「お前、今ちょっと後悔してるだろ」

信号待ちで止まったとき、俺は思わずそう言った。

「後悔とか、すんなよ。まだおばあちゃんの容態がわかったわけじゃないんだし。もしかしたら、ただの風邪とかかもしれないし」

「……わからないから不安なんだよ!」

いつになく荒々しい口調のまなみ。

そして、感情をコントロールできない自分を押し込めるように、深くうつむいた。

「そうだよな……」

頼りない俺のつぶやきは、エンジンの音にかき消された。