昼食は昨日のバーでとることになった。

昼間は喫茶店として営業しているらしく、昨夜と同じようにスキー客で賑わっていた。

まなみと詩織は自然に隣同士の席に座っている。
俺の友達とまなみが親しくしているなんて、不思議な光景だ。

けど、気分は悪くない。


食事を終えて、店を出ようとしたところに、携帯の着信音が鳴った。

「あ、私だ」

そう言って携帯を取り出したのは、まなみだった。

画面に表示された文字を見て、まなみは首をひねる。

「電話か?」

「ううん、メール。お母さんから。不在着信もあるけど……何だろう」

ピッ、と小さな音がした。
まなみがメールを開いた音。

次の瞬間、彼女の瞳は大きく見開いたまま、画面に釘付けになった。

「……どうした?」

まなみの顔をのぞきこんでたずねてみたけど、返事はなかった。

代わりに彼女は、小刻みに震える手で携帯を俺に手渡した。

何だろう。
俺は黙ってメールに視線を走らせる。

《電話したけれど出なかったので、メールにします。
さっきおばあちゃんが入院しました。落ち着いたらまた連絡します。
お母さんより》

「……」

もう一度まなみの顔を確認すると、その頬はすっかり血の気を失っていた。

「ケイ……どうした?」

心配そうにトオルが言った。

その声を聞いて、俺は自分までひどく動揺していたことに気づく。

……ここで俺が焦ってる場合かよ。

「詩織。ここから北海道に行くには、どのルートが一番早い?」

「今からの時間だと、……新潟から出てる夕方の便しかないと思う」

「そうか」

念のため着信履歴からまなみの親にかけ直してみたけれど、出る気配はない。

このままここでやきもきしていても、しかたないだろう。

俺はキュッと唇を噛んだ。

「今から、行くか?」

「……え?」

青ざめた顔を上げるまなみ。

その瞳は不安げで、言葉の見つからない唇が震えている。

「大丈夫。俺も一緒に行くから」

俺の強がりは、少しでも彼女を安心させてあげられただろうか。

泣きそうな顔でうなずくまなみを見つめながら、心臓の音が加速していくのがわかった。