まさかの遭遇は、長野2日目の夜に起こった。
遊び疲れたトオルが夜の8時にもならないうちに眠ってしまい、俺はひとりで暇を持て余し、部屋を出た。
行き先は決めていた。
詩織の実家が、ペンションの他に経営しているというバーだ。
肩に積もった雪を払いながらバーの扉を開けると、店内は若い客で賑わっていた。
男女交じった笑い声があちこちから響く中、カウンターに目をやると、白いシャツにエプロン姿の詩織がいた。
詩織はカウンター席に座る女性客と話しながら、こなれた手付きでレモンを絞っていた。
「詩織」
と声をかけて、テーブルの間を縫うように詩織の方へ進む。
そのとき、詩織としゃべっていた客の顔が、こちらを向いた。
「あ」
……まなみ!?
「ケイ君っ!?」
聞きなれた声が響く。
けれどその声は少しひっくり返って、驚きを隠せない様子だった。
まあ、俺だって、相当驚いて、声を上げることすら忘れていたのだけど。
「ケイ君、長野で何してるの!?」
まなみが混乱した口調で言った。
至極、当然の質問だ。
俺は少し考えて、たどたどしい口調で答える。
「な、何って……」
……お前が長野で寂しい思いをするんじゃないか心配で、まさか会えるなんて思ってなかったけど来たんだよ。
なんて言えるわけもなく。
……しかもその“まさか”が、こうして起こったんだよ。
なんて、もっと言えるわけなくて、
「冬の長野といえばこれに決まってるだろ」
とっさにスノボーのジェスチャーを見せてごまかした。
「え?何?知り合い?」
驚いたのは俺とまなみだけではないようだ。
カウンターの中から詩織が興味深そうな瞳をして、俺に答えを求めている。
まなみの方を見ると、彼女も同じ瞳をしていた。