俺のせいで、まなみの顔はさらにどんより暗くなってしまった。

ああもう、自分に平手打ちをくらわしたい気分。

と思っていたら、

「こら、ケイ!もとはといえば武史が悪いんだから、そんなこと言うんじゃないよ」

父さんが俺の頭を新聞紙ではたいて言った。

「ほんっとに、武兄もケイ兄も、オバカなお兄ちゃん達でごめんね」

エミが大人びた口調で言って、まなみに頭を下げる。

“オバカなお兄ちゃん”というエミの言葉にも、今回ばかりはうなずくしかない。

けど。

まさか俺がまなみのスケジュールに合わせて長野行きを予定しているなんて知ったら……

オバカどころか、ただのストーカー扱いなんだろうな。





そんな感じでモヤモヤしながら、翌週の木曜日を迎えた。

まなみにはもちろん、家族にも長野のことは言わず、友達の田舎に遊びに行ってくるとだけ言って、俺は家を出た。



東京駅でトオルと待ち合わせて、新幹線“あさま”で北上。

普段はあまり馴染みのない列車名が、北に向かっていることを感じさせる。

新幹線は約2時間で、俺らを長野まで運んでくれた。

駅を出ると、しびれるような寒さの中、詩織が迎えに来てくれていた。

「いらっしゃーい!ようこそ信濃へ」

芝居がかった口調で言う詩織。

数日前から帰省してペンションの手伝いをしているせいか、詩織は東京にいるときよりも愛想がよく、少し浮かれているようにも見えた。