「ケイ君、コーヒーでいい?」

振り向くと、キッチンにはまなみの姿。

彼女が持つトレーには家族全員分のマグカップが載っていて、湯気があがっている。

「……あ、うん。じゃあコーヒーで」

顔を見るとつい長野のことを考えてしまって、気まずかった。

それが態度に出ていたのか、まなみは

「なんかケイ君、しおらしいね」

と笑って、俺にコーヒーを手渡した。



「そういえばまなみちゃん、お友達とスキー旅行に行くって言ってたよね?」

何の前触れもなくそんな話を持ち出したのは、母さんだ。

俺は焦ってホットコーヒーで舌をヤケドしそうになった。

そんな俺の動揺にはまったく気づかず、まなみは母さんの言葉にうなずく。

「はい。来週、長野まで行ってきます」

「気をつけて行ってくるのよ?怪我とかしちゃわないか、ママ心配だから」

「はい」

「あ、それから、変な人にナンパとかされないようにね」

その言葉を聞いたまなみの顔が、一瞬曇った。

「ナンパは、友達の彼も一緒だし、心配ないと思います」

「あ…それもそうだね」

まなみの重い表情を見て母さんは自分の失言に気づいたのか、苦笑いでごまかした。

本当なら、まなみを守るのは友達の彼氏なんかじゃなくて、兄貴の役目だったんだ。

なのにバカ兄貴が家出なんかしたせいで……。

悲しそうな顔のまなみを見て、俺は何かフォローしなければと、とっさに口を開いた。

何か、この状況を笑いに変えるようなことを……

「それってさー、お前、お邪魔虫じゃね?」

……バカ!俺!

フォローどころかますますドツボじゃないか。
どれだけアホなんだ。