今までウィンタースポーツなんて、数えるほどしかしたことがない。

高校の修学旅行で行ったことはあるけれど、そのときはナンパに夢中なトオルに無理やり付き合わされて、スキーどころじゃなかった。

だから、せっかく詩織が誘ってくれるなら、行ってみようと思ったんだ。

そう、単純に、お言葉に甘えてって感じで……

「本当か?」

トオルが鋭い目で俺を見た。

「本当にそれだけの理由か?」

「は?他にどんな理由があるっていうんだよ」

「だってお前、詩織に誘われたとたん、普通じゃないくらい食いついたし」

「……そうか?別に」

目をそらす俺に、詩織が言った。

「私は冬休み入ったらすぐ手伝いに来いって言われてるんだけど、トオルたちはいつ来る?」

「俺はいつでもいいけど。ケイは?」

「……来週の木曜、かな」

そう言うと、詩織とトオルはあっさり「了解」とうなずいた。

来週の木曜。

――それは、あいつが長野に発つ、前日だ。




……もしかしてこれって、ストーカーってやつじゃないだろうか?

次の日、クローゼットから旅行バッグを取り出しながら、不安になった。

いやいや。
別に、俺が自ら長野に行くことを決めたわけじゃないし。

でも、この日程で休みをとるために、わざわざバイトのシフトを先輩に代わってもらったりした俺。

我ながら、ちょっとやばいかもと思う。


一階に下りてリビングに入ると、エミが何やら窓際ではしゃいでいた。

「あ、ケイ兄。見て!」

エミにうながされて、俺は窓をのぞきこむ。

外はちらちらと粉雪が舞って、町に白いベールがかかったみたいだった。

「お~。初雪じゃん」

思わず見とれる俺の背中に、声がかかった。