まなみが長野に行くと言い出したのは、それから一ヶ月後のことだった。

「お友達と行くの?」

と母さんがたずねると、まなみは歯切れの悪い返事をした。

「友達と、その子の彼氏と……3人で」

「3人?なんで友達カップルの中にお前が紛れ込むわけ?」

俺の質問にムッとした表情を見せるまなみ。

「最初は、4人の予定だったんだよ」

なるほど。

つまり、兄貴が家出する前に立てていた計画ってわけか。

「あいつが出て行った時点でキャンセルすれば良かったのに」

「うるさいなあ。すっかり忘れてたの」

ずけずけ言う俺をにらんで、まなみはそっぽを向いた。




そんなやりとりを今朝したばかりだったから、同級生の柿本詩織がスキーの話を始めたとき、俺は少し反応してしまった。

「うちの実家ってね、スキー場の近くでペンションやってんの。だから冬休みは手伝いで大忙しなんだ」

「スキー場って、どこの?」

「長野県」

たまげた。
何て偶然なんだ。

「あれ?私の出身が長野だって、前に言ったことなかったっけ?」

「さあ。忘れた」

「ケイがそんなの覚えてるわけねーじゃん」

机の上に行儀悪く座ったトオルが、口をはさむ。

詩織はノートにでたらめな落書きをしながら、ひとり言みたいに言った。

「そっかあ。じゃあケイは長野に興味なさそうだね」

「え?」

「こんどの冬休み、トオルと一緒に遊びに来れば?って誘おうと思ってたんだけど――」

「行く!」

詩織の言葉が終わる前に、俺は身を乗り出して答えていた。