盛り上がるリビングを抜け出して、俺は二階のベランダに出た。

手には、昨日おじさんからもらったチョコレートを持って。


ベランダの手すりにもたれて、板チョコの箱を開けた。

冬が近いことを感じさせる冷たい風が、銀紙を揺らしてカサカサ鳴る。

一口目は小さなかけら。
二口目は、もうちょっと大きく。

久しぶりに食べたシンプルな板チョコは、懐かしくて、少し幸せな味がした。


窓の開く音が背後で響いた。

振り向くと、そこにはまなみの姿。

「よう」

「……よう」

なぜか俺の真似をして、男っぽくあいさつをするまなみ。

俺の手にあるチョコを見ると、まなみは唇をとがらせて言った。

「何ひとりで食べてんのよ。私にもちょうだい」

「やだね」

「ケチ」

まなみは俺のとなりで手すりにほおづえをつく。

さっきまで尖っていた唇からもれるのは、楽しそうなクスクスという笑い声。

「ねえ、ちょうだいってば」

「しょうがねえなー。ほら、最後のひとかけら」

まなみの白い手のひらに、ころん、とチョコレートが落ちた。

「……ありがと」

嬉しそうに微笑んでそれを口に入れるまなみ。


チョコが溶けるまでの少しの間、俺らは何も話さなかった。

けれど同じ甘さをふたりで味わっていられる時間が、俺は幸せだったんだ。


そんなこと、もちろんあいつにはまだ言えないけどね。