「んじゃさ。武史くんが帰ってきたら、俺が会いたがってたって伝えといて」

「なんでお前が会いたがるんだよ」

「暇なんだよ。高校卒業してから、毎日が死ぬほど暇」

「バイトすりゃいいじゃん」

「やだね。人生のうちでこんなに退屈する期間なんか、もう二度とないだろうからな。
専門学校が始まる来月まで、俺はとことん暇人を貫くんだ」

妙に自信満々な態度で、トオルは“若さ”の権利を主張する。
どいつもこいつも、気ままに生きる才能に長けているな、と俺は思う。

けれどそういう人間が俺は決して嫌いじゃない。
だからトオルとも高校三年間つるんできたし、おまけに4月から通う専門学校も一緒だ。

「ま、勝手にしてくれよ。俺はバイト行くから」

「えー!待てよ、ケイ!今から女の子たちと遊ぶんだ。お前も来いって」

「興味ない」

ひきとめるトオルを放置して、俺はバイクにまたがった。

「ケイ!そんなんじゃお前、いつまでたっても――」

「うるせーよ」

トオルの言葉を遮るように、俺は派手にエンジンをふかす。
やわらかい春先の空気が、バイクの爆音でびりびりと震えた。

「…まあ、とりあえず兄貴が帰ってきたら、トオルが会いたがってたって伝えとくよ」

そう言ってその場をあとにした。





兄貴の帰宅は一週間後の予定だ。

なんだかんだ言って俺は、あいつが北海道から戻ってくるのを楽しみにしている。


けれどまさか、兄貴があんな土産を持って帰ってくるなんて、予想外だった。

だいたい、北海道の土産といえば、“鮭をくわえた木彫りの熊”と相場が決まっているんじゃなかったのか?