Pure hearts 赤 -ケイside-

「武史くん」

食事のあと、二階に上がろうとしたときに後ろから声をかけられ、それが自分を呼ぶ声だということに最初気づかなかった。

振り向くとおじさんがいた。

ああ、そっか。
俺、今は“武史”なんだよな。

「はい」

「武史君は、甘いもの好き?」

にこにこ顔でおかしな質問をするおじさん。
何だ?

「好きですけど」

俺の言葉を聞くと、おじさんは嬉しそうに鞄から板チョコを取り出した。

「これね、まなみの好物なんだけど、武史君にあげるよ」

まるでこっそりお小遣いをあげるみたいに、俺にチョコレートを握らせるおじさん。

「まなみが小さい頃、いつもこのチョコをねだってきてね。いつの間にか僕もこれが好物になってしまって」

「……」

どうしてそれを俺に?
と聞きかけて、やめておいた。

今は、兄貴じゃなくて俺に、このチョコレートをくれたのだと信じていたかったから。




次の日、まなみは両親を連れて東京見物に行くことになった。
そして俺はそのナビゲーター役として同行することに。

東京タワーとか浅草とか、希望の観光コースをひと通りまわり終えたのは、4時を少し過ぎた頃。

おじさんが言った。

「ちょっと別行動しようか。こんな観光に付き合わせてばかりじゃ、武史君に申し訳ないからな」

「いや、僕は全然……」

俺の言葉に首を振って、近くにあった背の高いデパートを指差すおじさん。

「6時に、あそこの一階で待ち合わせしよう。少しの間だけど、若い人たちでデートを楽しみなさい」

……デート?!

「ちょっと、お父さん!」

まなみが止めるのも聞かないで、おじさん達はさっさと背を向けて行ってしまった。

これは……嬉しいような気まずいような、予想外の展開。