そのとき、おじさんとおばさんの視線が、ふいに俺へと移動した。

「まなみ……この人が武史くん?」

俺の顔から目をそらさずに、おじさんが言った。

「うんっ、そう!そうそう!」

緊張のあまり、「そう」を連呼するまなみ。

リビングの空気が緊迫して張り詰めた。
父さんも母さんもエミも、息を止めて見守っている。

そんな中で俺だけは不思議と緊張していなかった。
代わりに感じていたのは、嫉妬だ。

まなみの両親が俺に向ける視線が、あまりに優しすぎたから。

それは“娘の彼氏”に向ける視線だった。

「……はじめまして。まなみさんとお付き合いさせて頂いている、浅田武史です」

かしこまった声でそう言いながら、最後の名前の部分を変えてやりたいと、どれほど強く思ったか。

けど、そんなことしたら今回の計画が台無し。
て言うかまなみのそばにいられる今の関係が、台無しだ。

「どうも、うちのまなみがいつもお世話になってます」

疑う様子すらなく、俺に優しく微笑んでくれるまなみの両親。
その顔には“やっと会えたね”という喜びが浮かんでいる。

たぶん、これまでにまなみから色々と兄貴の話を聞いていたんだろう。

そんなことを思いながら、俺は浅田武史に嫉妬した。




その日はみんなで夕食をとった。

おじさん達が俺を兄貴だと信じこんでくれたことで、うちの家族も安心したのだろう。
緊張が溶けてすっかりいつもの調子だ。

まなみだけは、不安そうな顔で、俺と両親の顔を交互に見たりしていたけれど。

とにもかくにも、俺の名演技のおかげで何とか今日一日を乗り切ることに成功。

……って。
俺、何やってんだろ。