ゴトン。
携帯はまなみの手のひらをすり抜けて、地面に落ちた。
『まなみちゃん?まなみちゃん?!』
足元で母さんの声が小さく響く。
けれどまなみは呆けた表情のまま、落とした携帯を拾おうともしない。
代わりに俺が拾った。
「あ、もしもし、母さん?俺だけど……」
『ケイ?!あんた、まなみちゃんと一緒にいるの?』
「うん」
『今すぐ帰ってきて!まずいの!まなみちゃんのご両親がね、今、うちにいるのよ!』
……は?!
「何それ」
『どうやらまなみちゃんに会いに来たらしいんだけど、ぜひ武史にも会いたいっておっしゃってるの。けど、武史は家出しましたなんて、まさか言えないし……』
そりゃそうだ。
言えるわけない。
あたふたと何かしゃべり続ける母さんを無視して、俺は電話を切った。
「……どうしよう」
頭をかかえてうなだれるまなみ。
「肝心の武ちゃんが家出したって分かったら、うちのお父さん、絶対に怒り出すよぉ……」
「……」
「今すぐあの家を出てアパート借りろって、言われるに決まってる……」
それは…俺もちょっと嫌だ。
て言うか、すげーすげー嫌だ!
何か方法はないか?
何か、切り抜ける方法は……
「ごまかせるかも」
「えっ?」
俺の言葉に、まなみの表情が少し明るくなった。
俺はごくりと唾を飲み込んで、今思いついた計画を話す。
「たしかお前の親って、兄貴に直接会ったことはないんだよな?」
「え…うん、電話は何度もしてるけどね」
「そっか。まあ、声くらいならなんとかごまかせるか」
「はい?」
にやっと笑う俺を、まなみは微妙な表情で見つめる。
自分でも、むちゃくちゃな計画だということは分かっているけれど……
「よし、俺が兄貴のふりしてやるよ」
……今は、これしか思いつかない。