「え?」
ウサギが差し出したのは、子供たちに配るはずの、真っ赤な風船。
まなみが遠慮がちに受けとると、マイクごしの女の人の声が響いた。
『みんな、風船はもらいましたかー?』
声はステージの上からだった。
携帯電話を片手に持った女の人が、風船を手にした子供たちに呼びかけていた。
『せーので、一緒に飛ばしましょうね。きっと携帯電話みたいに、風船がみんなの気持ちを届けてくれますよ』
子供たちは、きゃーきゃーと騒いでスタンバイをする。
俺は無意識に、まなみが持つ風船を見た。
気持ちを届ける赤い風船。
……でも、いったい誰に?
『せーの!』
マイクのかけ声と同時に、無数の風船が空へと向かった。
青い空がカラフルに染まって、子供たちの歓声が大きくなる。
ぼんやりと空を見上げるまなみを、俺は促した。
「お前もやれば?」
「……うん」
風船の紐を持つまなみの手が、そっとほどける。
真っ赤な風船はまっすぐに空へと向かい、やがて風に乗ってどこかへ流れた。
俺はそれが見えなくなるまで空を仰いだ。
悔しいけど、どうかまなみの気持ちがあいつに届きますようにって……複雑な気持ちで祈りながら。
風船を飛ばして満足した子供たちは、それぞれの親の元へと散っていく。
でも俺はまだ、空から目をそらすことができずにいた。
なぜか今は、まなみと目が合うのが怖い。
まなみがどんな表情で空を見上げていたのか、知るのが怖かった。
その気まずいムードを破ったのは、突然鳴ったまなみの携帯だ。
ちかちかと光る画面には、“ママさん”の文字が表示されている。
……母さん?
「もしもし」
まなみは普段通りの声で電話に出た。
母さんが何か叫んでいるのが、電話越しにかすかに聞こえる。
次の瞬間、まなみの顔が凍った。



