「……行くぞ」
少しふてくされて、階段の方に視線をそらす俺に、
「ちょっと待ってよ。私、まだ寝グセも直してないし」
早口でそう言うまなみ。
振り向くと、あいつは恥ずかしそうにはねた髪を手のひらで押さえていた。
……ああ、もう。
そんな仕草のひとつひとつが、いちいち可愛いからムカつく。
俺はまなみをバイクの後ろに乗せて走った。
ちなみに女の子とふたり乗りは、初体験。
けど、あんまり感動とかはなかった。
ひたすらドキドキしているうちに、目的地に着いてしまった。
「CDショップ?」
駐車場でバイクから降りたとき、まなみは不思議そうな声でそう言った。
当然といえば当然だろう。
俺が連れてきた場所は、何の変哲もない普通のレコード店。
もちろんまなみを連れてきた理由は、ちゃんとあるけれど。
俺は何も言わずに、店の中へと入った。
「鈴木さん」
棚の整理をしていた店員に、声をかける。
「おー、ケイ。久しぶり」
顔を上げた店員は、俺を見て笑顔で立ち上がった。
“鈴木さん”。
このレコード店の店長だ。
まなみをこの店に連れてきた理由は、鈴木さんにある。
なぜなら。
「うちの兄貴、最近来てないですかね?」
彼が、兄貴の親しい友人だから。
「いや、ここんとこ武史は顔出さないなあ」
「もし来たら俺に連絡もらえます?」
「おー、いいよ」
話を終えると、俺は足早に店を出た。
俺の後ろをまなみが追いかけてくる。
「ねえ、さっきの人は?」
「兄貴の友達」