「別に、気遣ってるわけじゃないし」
まなみが言った。
「みんなさ、私のこと家族同然に接してくれてるでしょ?だから、私も家族として何かしたいんだ」
「……」
まなみは止めていた掃除の手を、再び動かし始めた。
俺はうまく返す言葉がなくて、ただそっけなく「ふーん」と答えた。
……“家族として”だって?
笑えねーよ。イライラする。
だいたい、家族だったらこんなにイライラさせられることないだろ?
揺れる髪の動きとか、下を向いてむき出しになったうなじとか、こんなに気にならねーだろ?
どうするんだよ、俺。
これから毎日、どうすればいい?
……って。
やっぱ、どうもできねーか。
あああー……っ。
イライラする!!
「――何が?」
詩織の声で、ハッと我に返った。
「え、ああ……」
「あんた今、イライラするー!って叫んだでしょ?何がイライラするの?」
やべー。
俺、心の叫びを無意識に声にしてたわけ?
しかも学校で?
我ながらやばい人じゃん。
「いや。あの、何でもないっす」
「なんで敬語なのよ」
「……何でもねーよ」
「変なやつ」
詩織はおかしそうに笑って、昼飯のカレーパンを頬張った。
詩織の机の上には、なぜかちょっとエッチな本が広げられている。(ちなみに持ち主はトオル。)
それを楽しげに見ながら、詩織はカレーパンを食う。
「……あのさあ。お前だってじゅうぶん、変なやつだと思うぞ」
「そう?じゃあケイとは類友だね」
水着姿のモデルから視線を外さずに、詩織が言った。
世界中の女がみんな、こいつみたいなタイプだったら、俺は悩まないんだろうな。