母さんは当たり前のように言うし、父さんも同じ表情で俺を見る。

そしてまなみは――
俺から目をそらすように、うつむいた。

てか、このまま住む?
兄貴がいないのに、まなみはこの家で暮らし続けるって?

それがいいと思うだろうって?


「……思うわけないだろ!なんで、こいつだけが残るんだよ?どう考えてもおかしいって」

「ケイったら、なんでそんな意地悪言うのよ?」

母さんは相変わらずのん気に、子供を叱るみたいな口調で言った。

「意地悪じゃなくて正論」

まなみの顔がこちらを向いた。
強張った顔をしていた。

……そりゃあ、
このまま住んでも別にいいよ。
けどさ……

「お前、兄貴が帰ってくるって信じてるわけ?」

「え?」

「置いてけぼりにしたやつのことなんか、待つ必要ないし」

隣同士の部屋で暮らす心配より、まずそれを思った。
こいつ、兄貴のことを待つつもりかよ、って。

そして正直ムカついた。
でもなんで俺がムカつくのか、意味不明。

「……帰ってくるもん」

まなみのとがった唇から、そんな言葉が出た。

「あ?」

「武ちゃんは、絶対帰ってくる。だから待つって決めたの」

「……」

まなみは、ちょっとムキになっている感じだった。
けれど“帰ってくる”という言葉には、妙に力がこもっていた。


「じゃあ、決定ね」

と、嬉しそうな母さんの声。
そして母さんは、まなみの腕に抱きついた。
どこまでもノーテンキな親だ。

俺は髪をかき上げるふりをして、頭を2、3度掻く。

「……ま、勝手にすれば?」


ブスッとした表情で、まなみは俺をにらんだ。