まなみは顔を真っ赤にして、
「聞かれてまずいような、いやらしい会話してたのは、そっちでしょ?」
と、尖った口調ではき捨てた。
ん?やらしい会話?
なにやら妙な勘違いをしたらしく、変質者でも見るような目で俺を見ている。
「……はあ?何言ってんの、お前?」
思わずそう言うと、彼女は唇をへの字に歪ませてそっぽを向いた。
外見は俺の好みにドンピシャのまなみだったけど、中身は案外、気の強い女らしい。
それに、どうも俺はまなみに嫌われたっぽい。
けど、それが逆によかった。
俺はまなみを女として見ることがなくなったし、まなみも俺のことは完全に男として見ずにすんだ。
まあ、あいつにとっちゃ兄貴以外は、男じゃないんだろうけど。
そして一年半が過ぎた。
早いものだ。
俺はもう専門学校2年生。もちろん照明の専門学校。
まなみも大学の2年に無事進級し、兄貴は立派に社会人として働いている。
こんな平和な日々が、これからもずっと続くんだろう――
と、思っていたけれど。
変化ってやつは前触れもなく訪れる。
――『兄貴の彼女だし』
――『んなの関係ないって』
一年半前、トオルと冗談交じりに交わした会話を、なぜか夢で見た。
今思えば、それは何かの暗示だったのかもしれない。
その日学校から帰ると家の中が騒然としていて、まなみが真っ青な顔で固まっていた。
そしてそこに、兄貴の姿はなかった。
「武ちゃんが……」
いつになく弱々しいまなみの声。
――バカ兄貴はある日突然、出て行ってしまったのだ。
まなみを、この家に残して。