隣の部屋の電気は消えている。たぶん兄貴は爆睡中。
俺とまなみはこの狭いベランダに、ふたりきり状態だ。
……落ち着け、俺。
そこにいるのは手の届かないグラビアアイドル。グラビアアイドル。グラビア……。
ああ、しかし可愛いなあ。
『どうかしたか?ケイ』
「いや別に」
心臓バクバクしつつも、平然とした表情を装う俺。
まなみは町並みに視線を戻し、ベランダから立ち去ろうとしない。
ってか、いつまでそこにいるんだよ。
早く部屋戻れよ。
いや、俺が戻ればいいのか?
でも、この状態で戻ったら避けたみたいで変じゃん?
焦りまくりの頭の中がバレないように、俺は涼しい顔で電話を続ける。
「そうそう。でさ、原田の姉ちゃん、いるじゃん?あの人はすごかったぞ」
『原田の姉ちゃんって、たまにライブの照明もやってる人だっけ』
「おう。やっぱ経験積んでる人はテクニックあるっつーか」
『へ~』
しばらくするとトオルの携帯にキャッチが入った。
俺たちは短い挨拶をして、電話を切った。
カチャン、と携帯を閉じる音が、やけに大きく響く。
俺とまなみの間の空気を、微妙に震えた気がした。
「……」
「……」
すっげー気まずい沈黙。
どうしよう。
何かしゃべった方がいいよな?
てか何て言おう。
ああもう、何でもいいから、とにかく何か言わなきゃ――
「……盗み聞き」
「え?」
「趣味わりーよ」
……ああっ。
なんでそんな言葉が出てくるんだよ、俺のバカ!
そもそも俺が後からベランダに出たんじゃん。
盗み聞きじゃねーじゃん。