俺は渋々テーブルに手を伸ばした。

で、とっさに指でつまんだのは、白い皿に鮮やかな色を添えるトマトスライス。

……あ。
なんでトマトなんだよ、俺。

もっと他にも、ビーフ・ストロガノフとか、スープとかあるじゃん。
トマトスライスじゃ料理とは呼べないじゃん。

心の声に罵倒されながら、しかたないのでトマトを口に放り込む。
さわやかで、ちょっと酸っぱい味。

「……うん、美味いんじゃね?このサラダ」

いやもう、我ながらおかしいでしょ、このコメント。

ごちそーさま、と言い残し、俺はそそくさとリビングを出た。





自分の部屋に入ったとたん、どっと汗が噴き出た。
くそ。鎮まれ、俺!

とりあえずこれは一大事だから、トオルに電話。

すぐにつながった。

『……もひもひ?』

何か食べてる最中なのか、トオルの声はちっとも日本語になっていなかった。

けれどそんなことは気にとめず、俺は携帯に向かって叫ぶ。

「おい!やばいんだ」

『んあ?』

「兄貴の彼女が、めちゃくちゃ可愛いんだ!」

『まじで?!』

すごい食い付きようのトオル。
さすがは愛と刺激を欲する18歳男子だ。

「まじなんだよ。てか本気で俺の好みなんだよ」

『あーっ。おいしいな、それ』

「おいしくねーよ。兄貴の彼女だし」

『んなの関係ないって』

「……冗談だろ?」

『冗談だよ』

トオルは電話の向こうで何かを食べながら、お気楽な声で言った。

『ま、どんだけ好みでも、しょせんは人の女なんだしさ。目の保養だと思って楽しめば?』

つまり、グラビアの女の子を見て楽しむのと同じ感覚、ってこと。だそうだ。