その日の夜、
ちらちらと舞う雪をベランダで眺めながら、俺はまなみに聞いてみた。
「なんで家を出ようと思ったわけ?」
「まあ……、いろいろとね」
全然答えになっていない言葉で、うまくはぐらかされてしまう俺。
最近はどうも彼女の方が、一枚上手だ。
なんだかうちの両親みたいで、嬉しいような、複雑なような。
そういえば、バレンタイン本番が来週に迫っていた。
まなみは俺のために手作りチョコを作ってくれるんだって。
俺は、目を閉じて想像してみた。
隣の家まで走る自分。
北風にかじかみながら、鳴らすチャイム。
そして
甘い香りをまとい、笑顔で扉を開ける彼女を。
「……結構、いいかも」
「え?」
「ううん。手作りチョコが楽しみって言ったんだよ」
――そのせいかな。
雪の中で交わした初めてのキスが、なんだか甘い気がしたのは。
【END】