【エピローグ】
あっという間に一週間が過ぎた。
「……さ。準備完了」
段ボールに荷物を詰めて、まなみはふぅっと一息つく。
「運ぶの手伝ってやるよ」
「いいよ。荷物少ないし」
そう言って笑うまなみ。
俺は段ボールのふたをたたいてつぶやいた。
「ほんと少ないよな。これが引越の荷物だなんて思えねーもん」
まなみは、この家を出ていくことになった。
俺にとってはまさかの展開。
けれど変化は彼女だけではなく、この一週間、本当にいろんなことがあったのだ。
まず、一番目の変化は、またしても兄貴が放浪の旅に出てしまったこと。
「俺、しばらく留守にするわ」
そう言って出て行った兄貴は、なんと今、トルコのイスタンブールにいるらしい。
さすが兄貴。
とうとう国境線まで飛び越えたってわけだ。
旅立ちの前に、俺はじっくりと話し合いの場を持とうとしたのだけれど、湿っぽいことが嫌いな兄貴がそうさせなかった。
不器用なあいつなりの、精一杯の優しさ。
けれどできればまたひょっこり帰ってきて、トルコ美人の話なんか聞かせてくれることを、密かに期待している。
そのときまでには俺も、少しくらい酒が強くなっているだろう。