リハーサルが始まった。

観客のいないリハーサル。

まあ、それが当たり前なんだけど。


俺は誰にも見てもらうことのないステージに、ひまわりの花を置いた。


「ケイ、それ……」

「……うん」


ショーは20分。
タイプの違う音楽を3曲使う。

俺は最後の曲で、このひまわりに照明を当てるつもりでいた。

光が主役ではなく、あくまで何かを照らす存在。
それを表現したかった。


「まあ、観客がいなくなったから、わざわざリハーサルで生花まで使わなくてよかったんだけど。一応、花屋に予約してたしさ」


苦笑いする俺に、トオルは言った。


「もしかしてひまわりって……まなみちゃんが好きな花?」


あまりにドンピシャすぎて、笑うしかなかった。


「うわ、お前、勘いいなあ。なんでわかんの?」

「わかるっつーの」


空元気の俺を痛々しい目で見ながらトオルは言う。


「ひまわりなんて、お前のガラじゃねーじゃん。どう考えたって、彼女のことを想って選んでるじゃん」

「……」


ほんと、鋭い。
それとも俺がわかりやすすぎるのか。

……たぶん、後者だな。


恋をした俺は、あきれるくらい単純だった。

複雑な思いを胸に抱え、
それでも彼女を好きな俺はあきれるくらいに単純な奴だった。

俺は恋をして子供に戻ったんだ。

だけど今日――恋を失って、たぶん少しだけ、大人になる。