天使という名のハンター

 ──全てが終わり廃ビルにCIAが数人、訪れて事後処理を始めた。それを横目に血に染まったベリルにセシエルは顔をしかめる。

「すまなかったな」

「問題ない」

 そう言ってセシエルの車の助手席に乗り込む。



「本当に不死なんだな」

 車を走らせてしばらく、セシエルがぼそりとつぶやいた。ミハイロヴィチを倒したあと、心配で傷口を確認したら綺麗さっぱり無くなっていた。

 そこでようやく、実感が持てたという訳だ。

「死なないってのはいいねえ」

「そう思うなら代わってほしいものだ」

 その言葉にセシエルは怪訝な表情を浮かべた。

 死なないんだから無理が出来るし俺たちの仕事には、うってつけじゃないか。そう考えていたが──

「死ねないのは勘弁したい」

 つぶやいたベリルに目を眇める。

「──死ねない?」

「当分、引退は出来そうにない」

 流れる景色を眺める横顔には薄い笑みが張り付いていた。それにセシエルは眉を寄せる。

 ベリルの言葉から、死をも厭わないほど走り続けていた事が伝わってきた。いや、むしろ傭兵として死ぬことを望んでいたような口振りにも感じられる。

 望んでいた死に方が出来ないことを残念がっている。何か、重大なことを抱え込んでいるのか。

 墓まで持っていくつもりだった秘密を──?


†††