驚きと恐怖でミハイロヴィチが銃口を向ける前にハンドガンは手から弾かれ、男の仲間はそれを見て肩に掛けていたライフルを構えたが引鉄が絞られる前にベリルは壁に隠れた。
「たはー。えげつないねえ」
逃げられないってことを堂々と出て示しやがった。精神的な退路まで断つとは徹底している。
とはいえ、やはりボスには護る人間が多い。ざっと数えてもミハイロヴィチを含めて八人はいる。
「ふざけやがって」
ミハイロヴィチは、ここまで何事もなく上がってきたベリルに他の仲間はすでに倒されていると察し奥歯を噛みしめる。
ベリルは仕掛ける前に四階に上がり、誰もいない事を確認していたので背後から撃たれる心配はない。
しかし、ミハイロヴィチたちは弾薬をしこたま持ち込んでいるのか、ドラムバッグから弾倉が次々と補充される。
セシエルは手持ちのマガジンが残り二つになり舌打ちした。視線を感じてベリルに目を向けたとき、マガジンが飛んできて受け取る。
なんだよ。俺が使っている銃の弾薬まで持っていたのか。
「サンキュ」
よく見れば、ベリルは弾薬を節約している。
敵は当たらないようにデスクを盾にしているが、撃つために顔を出すとベリルの弾は確実にどこかをかすめている。
少ないダメージながらも、あれだけの傷を連続で負えばタダではすまないだろう。とはいえ、それじゃあ時間がかかる。
そこまで待つつもりは──あいつにはないな。



