天使という名のハンター

 
 ──廃ビルの三階は二階と同じく、元オフィスでデスクや椅子が乱雑に壁際に寄せられていた。明かりもなく、板張りされた窓の隙間から差し込む細い光で室内は薄暗い。

 ミハイロヴィチはデスクに腰を落とし、ブラウンの髪をかきあげて苦々しく宙を見つめた。

「くそ」

 逃げ込むはずの隠れ家を先に突き止めて潰しやがって……。

 ベリルという人間が、これほどまでに厄介だとは思わなかった。隠れ家はマレーシア以外にも用意しているが、あいつがいては国外に脱出すらもままならない。

 よしんば脱出できたとして、残った隠れ家が無事である保証はない。殺すこともできないなんて、八方ふさがりだ──

「うるさいぞ!」

 階下の物音に怒鳴り声をあげて舌打ちした。

「こんなはずではなかった」

 慎重にやってきたのに、どこで計画が狂ったんだ。(ベリル)に知られた時点で俺の負けは決まっていたというのか。

 階下から未だ響く音にぐしゃぐしゃと頭をかきむしる。

「うるさいと言ってるだ──っ!?」

 怒鳴りながら入り口に目を向けると、現れたベリルの姿に目を見開く。あたかもスローモーションの映像を見ているかのように、それはゆっくりと流れた。