「悪い悪い」

 いつでも無表情で悟りきった様子のこいつでも、こんな顔をするのか。

 未だ肩をふるわせるセシエルに、そうは思っていないだろうと眉間のしわを深くした。

 ──そろそろ二階の奴らも不審がるだろうと二人は足音を忍ばせて階段に向かう。扉のない入り口から再度、覗き込むと三人の男は苛ついているのか舌打ちをしていた。

 隠れ家ではなく、こんな廃ビルに逃げ込まなければならなかった事でも苛立っているのだろう。椅子を蹴り飛ばしたりもしている。

 なるほど、これなら多少の騒ぎは上の階も無視をする。