「私が名乗った訳ではない」

「それはそうだがよ」

 ばつが悪くて頭をかきつつ薄汚れた元店内を見渡した。

「しかし──。なんだってこんな所に隠れてんだ」

 まるで急遽、逃げ込んだって感じだ。

「準備していた隠れ家はあったのだがね」

 意味深なベリルの言葉にセシエルは片目を眇める。

「おい、もしかして……」

 何も言わず口角を吊り上げたベリルに目を丸くし、こみ上げてきた笑いを必死に押し殺す。

「お、お前な──。だから、悪魔なんて、呼ばれるんだ」

「悪かったね」

 どうしてそこまで笑われるのか解らず、難しい顔をするベリルに吹き出しそうになるのをこらえる。