「──これだから金持ちは嫌なんだ」
広いエレベータの中でベリルの背につぶやく。
天井には、見たこともない大きなシャンデリアがつり下げられ、空間は暖色の明かりで明るすぎず暗すぎず。上品なクラシックが流れ、身なりの整った客がカフェでくつろいでいた。
エントランスからして豪華で目眩がする。
こんな光景にめぐり会ったことのないセシエルは、入って直ぐ帰りたい気持ちになりながらもベリルを逃がしてたまるかと狼狽えつつもあとを追う。
「セキュリティが重要でね」
プレートに2115と刻印された扉を三度ノックする。すると、鍵が開く音とバーロックの倒れる音がした。
一人じゃないのか? と片眉を上げる。
仲間なら自分の身が危ない。セシエルは身構えてベリルのあとに続き部屋に入る。
「おかえり。異常なしだ」
「ありがとう」
出迎えた男はバーロックを起こし、ドアをロックして怪訝そうに立っているセシエルを笑顔でリビングに促した。
セシエルはすぐ、険しい表情を浮かべる。もう一人、姿は見えないが気配がする。



