数時間後──ヘトヘトになって流れる観光客を眺めていたセシエルの目に、見覚えのある姿が映った。
「あいつ!」
逃がすものかと駆け出す。
見つかって逃げられる前に捕まえる。距離にして百メートルほどを一気に詰めた。
「おい」
肩をぐいと掴んで振り向かせる。
しかし、ベリルは驚いた風もなくセシエルを見上げた。それにセシエルが逆に驚き、ベリルの肩を掴むまでの流れを思い返す。
いや、違う。こいつは一度、振り向いていた。俺がいると知っていた。
「なんで──」
逃げなかった。
「思ったよりも速い」
ベリルは薄く笑い、そう言って歩き出す。
まるで待っていたかのような言動にセシエルは眉を寄せ、逃げる気のないベリルの後ろを歩く。
百八十センチのセシエルからすれば百七十四センチのベリルは小柄でふと、これまで聞いた話を思い出す。
調べれば調べるほど、こいつの功績が出るわ出るわで、尊敬しているという奴に小一時間ほど語られ続け、げっそりした。
初めに会っていなければ、話を聞く限り随分と大柄な奴だと想像しただろう。



