──移動のあいだ時折、ベリルは口を開くことがあった。
それは、たわいもない言葉なのだが、そこにはセシエルに対する殺意も悪意も、敵意すらまるで感じられずアンジェリーナから聞いた人物像とはあまりにもかけ離れていた。
しかし同時に、闇の面を隠すのが上手いのだろうとも考える。
セシエルは疑問と怒りとを交互に抱く葛藤の長い時間を過ごしていた。
そんなセシエルのジレンマを余所にベリルはただ、のんびりとシートに腰を落とし窓から流れる風景を眺めている。
そんな優雅な様子をバックミラー越しに見ているとなんだか腹が立ち、ついついアクセルを踏み込んでしまう。