──見つかったことへの苛立ちも、「だからどうした」という開き直りもない。ただ無表情にこちらを向いて、冷め切った瞳がセシエルの恐怖心を膨らませた。
とはいえ、そんなことくらいで気後れするほどセシエルは弱くも経験不足でもない。いくら依頼者に女性が多いからと、顔だけで生きていける世界じゃない。
「奥さんが仇を討ちたいんだそうだ」
それに興味を持ったのだろうか、ベリルの瞳がやや表情を見せる。
「レイチェルか」
「アンジェリーナだ」
何を言っていると顔をしかめ、殺した男の妻の名前なんて知る訳ないかと険しい視線を送った。
「妻の名はレイチェルだ」
「は?」
間違いを認めないベリルに呆れつつハンドガンを抜いて銃口を向ける。