ある日忽然と、兄は姿を消した。
それはレイが15歳、ルックが9歳の頃の3月のことだった。
卒業式へと出かけたレイがいつになっても帰ってこず、朝になっても、また次の日になっても帰ってこなかったのである。
普通なら誘拐されたのではと心配するが、母親は何事もなかったかのように毎日食事を作ってくれた。
ただ、その食事は母親とルックの分だけに変わった。
母親に「兄さんは何処に行ったの?いつ帰ってくるの?」と、問いかけると殴られ「二度とその名を口にしないで」と言われたので、それ以上は何も聞けなかった。
父親にも同じ事を意を決して聞いたけれど無視されたので、ルックは困惑した。
いなくなる理由がわからなかったのである。
大人の都合が子供に伝わるはずがなく、子供の思いも大人に伝わることはなかった。
一人ぼっちになったルックは毎日授業が終わると急いで家へと帰ったが、レイが帰ってきた気配はなければ、帰ってくる気配もなかった。
ただ毎回、母親が帰ってくる音にレイではないかと胸を高鳴らせ、そしてガックリと肩を落とす。
レイの荷物も暫くそのままだったが、数週間がたった頃に一掃された。
レイがいた痕跡が全て無くなってしまった。
ルックは空っぽになり、カーテンくらいしかないその部屋の中ポツンと一人立ち尽くす。
かつてここで、折り紙を教えてくれた兄はもういない。
かつてここで、勉強を教えてくれたレイは、もう戻ってこない。


