『チカ……、ぅ…ち…か…………………』
潰れたようなその声に、ジャックドーは、何かを悟って、走り出した。
掛けなおせば良いという考えはなく、もしかしたら、そのときにもう最悪の結果を想定していたのかもしれない。
ただ、走った。
しかし勉強しかしなかったジャックドーは体力の面はあまり優秀とはいえなかった。
家と学校は距離にして1.5kmほどで、1kmを走ったところで、咽喉から鉄の味が湧き出し、内臓に穴が開いたような痛みを感じた。
脚も鉛のように重たく、汗が体中からあふれ出してくる。
ジャックドーのその姿を見た街の人間は、あの金持ちの御曹司が…、と奇異を感じ、珍しそうな視線をぶつけた。
転びそうなもつれた足取りで、漸く家へと辿りついたジャックドーは、キッチンから漏れるべとついた液体を目にした瞬間、靴も脱がずに家へと入った。
勢いよくドアを開けた、そこは一面血の海で、朝、笑って見送ってくれた母親が、倒れており、その近くにも会社にいるはずの父親が、同じように倒れていた。
駆け寄り、見た、両親は、面影などなく、筋を、筋肉を、血管を、内臓を全て切られたようで、指一つ動かせないまま天井を見つめている。
眼球だけを、ジャックドーに向け、母親は静かに言った。


