飛べないカラスたち





「……っ…え…?」



その音の真意がわからずにそんな、小さな言葉を呟いた。


先ほどまで響いていた、今まで何度も何度も聞いていた、聞きなれた削除音じゃない、歪な、捻じ曲げたような音。


全身の血液を抜き取られたかのように、静かに体温は降下して行き、まるで命に関わる出血でもしているようだ。


理解が追いつかない。


理解に追いついて欲しくない。


理解すればそれは、認めることだ。


足が、ガクガクと震えだして、それでも無理矢理身体を支えては一歩ずつ、歩む。



「兄さん……?クロウ……?」



階段を下りる。


一段一段降りていたその足は段々と加速をつけて、最後には駆け出すように二階を目指していた。


三階と二階の間の踊り場へルックがたどり着くとそこには、クロウが倒れたレイヴンを庇うように立っていた。


叫び声を上げそうになって、咄嗟に隠れる。


にじり寄ってきたのは宇宙服のようなものを着込んだ大人たち。


彼らを相手に戦っていたレイヴンは返り血か自分の血かわからないほどに洋服を血液で覆っていた。


月色の髪は赤に濡れて、白い肌も、返り血で汚れている。


廊下はおぞましいほどの血の海と血臭が当たり一面を覆っていて、敵側も大惨事となっていた。


それでも数は圧倒的にこちらが不利だ。


そこで、ふと最後にレイヴンに手渡された、スーパーボールのようなものを思い出して取り出す。


レイヴンが作った小さな化学兵器。その説明はボールに書き添えられていた。


それに小さく口付けて、下唇を噛んだ。


涙と一緒に、レイヴンとの記憶が、レイヴンでなかった、かつて兄と呼んでいたときの記憶さえも、全て溢れて蘇ってきた。


手を繋ぎながら帰った家までの道を、その時の風の匂いさえも、手のぬくもりも、鮮明に思い出した。


兄が居なくなった時の、部屋の暗さ、胸の痛み、熱を持つ目元、冷えた背中、全て。


暖かい腕も優しい笑顔も、その声も、背中も、揺れる髪も、何もかも。