勿論、クロウもレイヴンもルックの答えを急かすことはしない。ただ、意見を伝えたかっただけだ。
暫く足音と、少し乱れた息遣いだけが鼓膜を振動させる。
それ以外には何も口にしなかった。出来なかった。
酷く、細い、真綿の上を綱渡りしているような感覚だった。綱渡りの、その隣には、茨が張り巡らされている。
微かな言葉一つで揺らめいて、むき出しの身体に突き刺さるように。
「……いいよ、僕も」
言ったのは、暫くの間を置いたルック。
思わずクロウも走りながらルックを見下ろす。その目は意思を決めた、目だった。
微かにフラッシュバックする、自分。
母親を殺そうと、誓い、その誓いどおりに手に掛け、彼女の今までの努力を知らないままに過ごしかけた、クロウ。
最後に知った愛情は痛みしか伴わなかったが、それでも、幸せだった。
それがもしルックも同じことになるのならば自分とは違い、母親を殺さずに一緒に過ごせたらいいとは思っていた。
しかし、ジャックドーの殺害と、自分の母への非難。
クロウにはどうしても許せない対象だった。
大臣も、ムカつくが。
「…わかった」
それだけ呟くと、クロウはルックから目を離して、前を見据えた。
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