女は咽喉を殴られ、倒れこんだ時に後頭部を打ち付けて、踊り場でうめき声を上げていた。
ジャックドーの拳が痛いのはクロウがよく知っている。
その手で、咽喉を殴られれば、すぐには言葉を発せないはずだ。その内に、逃げなければ。
頭を押さえ、削除音にか、ジャックドーの死にかに叫ぶルックの腕を掴んで走り出したクロウの後を、レイヴンが無言で追う。
ギリギリと歯を突き立てられている唇からは微かに赤く血が滲み出ていた。
殆ど使うことのなかった槍の柄を握り締める手のひらさえ、爪が食い込んだ。
「レイヴン」
走りながらクロウが話しかけた。
今、三人は一階から二階へと向かい、西棟と呼ばれる建物へと向かっていた。
先ほどまで居た東棟と西棟は一階と二階は行き来出来るが、三階から五階、屋上までは渡り廊下などがなく、棟を移動するには一度二階へと降りなければならない。
先ほど東棟で足音が聞こえたので、西棟から上がれば屋上まではまだ時間を稼いでたどり着くことが出来るだろう。
女もすぐに言葉が発せないので、三人の思惑を伝えることも出来ないはずだ。
レイヴンはルックと一緒にクロウを追いかけながら短く返答を返したが、クロウは顔を向けることもなく、足を止めることもせずに、続ける。
「アイツ、避けたんだよ、顔」
「アイツって……」


